| 第一夜
1998年4月29日
< 泣虚苦のドライ待ティーニ >
私が訪れたバーという事ですが、店の雰囲気やスタイルなど、ほとんど思い出すこ
とができません。一月も前にほんの少し寄っただけという事もありますが、その時間のほとんどは、私の五感すべての集中力とともに、そこのバーテンダーの一挙手一投足に費やされたという事によると思います。おもむろにカウンターに座り、記念すべきアメリカでの初酒に、私はドライマティーニを選びました。ベースはウオッカ、グラスはちょっと反抗的にカクテルグラス。すると、その若く、大柄なバーテンダーは透明なシェーカーに可愛らしい極小の氷をギッシリと詰め、シャトーラトュールであれば適温であろう、ウオッカをなみなみと注ぎ、次にベルモットに手をかけました。私の熱い視線で氷を溶かしてはいけないと思い目をそばめて見ていましたが、その時、年配のバーテンダーがその若いバーテンダーに話しかけてきました。どうやら彼の師匠らしく、何かアドバイスをしている様でしたが、待っている私にとってはただの支障でしかありませんでした。約三分間のインターバルでしたが、疲れたのか、氷たちはだいぶ姿勢を乱していました。私の視線のせいかな、とも思いましたが、既にそれは冷たいものに変わっていたので、やはり彼らの長話のせいでしょう。その後彼は、時間を気にしたのか、ベルモットを入れるのを省き、力強くシェークし始めました。微かに氷の音が聞こえ、やがて、私の期待とともに消えてなくなりました。ウオッカが無色透明である事に彼は感謝すべきでしょう。味は覚えていません。たった一口のウオッカの水割りを一月後に表現できるほど私の舌は敏感ではありませんので。 |